陳氏書院は広東省広州市中山七路に位置しています。ここは広東省に多い「陳」姓の人々が一族の祖先を祭るとともに、一族の子弟を教育するために造った書院で、陳家祠とも呼ばれています。
陳氏はかつて河南省周辺に存在した小国「陳」を発祥とする姓で、紀元前1127年、舜の末裔であった陶器匠・嬀満が周の武王より与えられた土地(現在の河南省淮陽)で建国したことに始まります。紀元前478年に陳は滅亡し、その末裔たちが四分五裂される中、亡国となった母国の名を姓とした人たちの末裔が現在の陳氏です。
嶺南建築様式
陳氏書院は中国古代建築の伝統と、嶺南建築様式の特色を兼ね備えた、きわめて保存状態の良い貴重な建物群が特徴。8000平方メートルの敷地内に巧みに配置された独特の書院(祠)は、前院、後院、東院、西院を主体とする大小19の建物と6つの庭、それらを結ぶ廊下で複雑に構成されています。また書院内のいたるところに精巧でみごとな彫刻が施され、その技巧には目を見張るものがあります。
歴史
陳氏書院は清代の光諸十四年(1888年)に建設が始まり、光諸二十年に完成しました。当時の広州72県に在住していた陳一族の人々による寄付で建立された、広東省の有名な族祠建築物です。
清代末期の嶺南地方特有の建築様式で建てられており、当時の広東地方の民間工芸が良好な状態で多数保存されていることから、現在書院の一部は広東省の民間芸術博物館にもなっています。
見所
陳氏書院は木、レンガ、石等、敷地内のいたるところに精巧でみごとな彫刻が施され、大量の陶器、彩色上絵、鋳物などの並ぶ、清代広東の民間建築芸術の粋を集めた美術館のようです。無名の工匠たちの残した芸術作品たちは、120年以上の時間を経てなおも輝きを放ち続け、むしろその輝きは増すばかりです。訪れた人々は思わず時間を忘れ魅入ってしまいます。
後院の通路の上は「三顧の礼」、「赤壁の戦い」など、日本でもなじみの深い三国志や水滸伝などの物語にちなんだ彫刻で飾られ、さながら「歴史彫刻の回廊」です。陳氏書院は歴史文化的価値が高い史跡として「広州八景」に選ばれています。中国の近代文学・歴史学の先駆者として著名な、政治家であり文学者であった郭沫若氏は、「天工人可代、人工天不如、果然造世界、勝読十年書(天の創造は人によっても可能だが、人による創造は天には出来ない。ここを訪れることは、十年の学業にも優る。)」という詩を詠んでいます。